2022/2/15
ヘアカット✄
— 小さな“立ち上がり”から生活を取り戻す —
こんにちは。菜乃花リハビリテーション部門ブログ担当です。
前回の記事では、「立ち上がることができない」には多くの原因が複雑に絡み合っているとご紹介しました。
前回はこちらから
「立つ」という動作は、当たり前に思えて、とても奥が深く、
筋力やバランスだけでなく、姿勢、感覚、環境、そして“怖くない”という気持ちまで関わってきます。
私たち老健のリハビリテーション部門では、立てない理由に応じて、“立つまでの道のり”を段階的に再構築しています。
今回は、当施設で行っている起立・立位訓練の進め方や工夫について簡単に例をご紹介します。
ご家族や他職種の方にも、「そうやって支援してるんだ」と伝わる内容になれば幸いです。
1. 段階的アプローチで「立てる感覚」を取り戻す
立ち上がる練習は、いきなり「立ってください」では始まりません。
以下のような段階的な訓練ステップを踏んで、安全に、そして確実に“立てる身体”を作っていきます。
ステップ①:「前傾姿勢の練習」
・骨盤を立てて、重心を足元へ移す練習
・「前にお辞儀してみましょう」という声かけがポイント
・背もたれを使わず、やや浅く座って前傾させるだけでも訓練になります
・腹圧や体幹機能も自然と使われるようになります
お辞儀し始め
お辞儀完了:頭のてっぺんが爪先を超える程度までいくと大変GOOD
ステップ②:「半立ち・立ちかけの動作練習」
・お尻が浮くか浮かないかの高さまで“立ちかけて戻る”練習
・反復運動として、大腿四頭筋・殿筋に効かせる
・転倒リスクを考慮して平行棒や介助者がつきます
・椅子を少し高くして負荷を調整する工夫も効果的です
高い座面で負荷を調整している様子:足に体重を移しやすく、お尻が上がりやすくなります。
ステップ③:「実際の起立動作の反復練習」
・十分に準備ができた方には、反復立ち上がり訓練を実施
・「3回連続で立ち上がる」「30秒間で何回立てるか」なども目標化できます
・動作のスムーズさだけでなく、疲労感やバランスの崩れ方も観察します
ステップ2写真からの続きとしての起立訓練:歩行器を利用して反復の為の負荷を調整しています
2. 立てたら終わりではない。「立ち続ける力」も育てる
立ち上がれたとしても、その姿勢を維持できるかどうかは別の話です。
そのため、起立の後には必ず「静的立位保持」の訓練も行います。
・足幅を調整して、重心が安定する姿勢を探る
・視線の高さを誘導(下を向くとバランスが崩れやすくなる)
・軽く話しかけながらの立位保持(認知・注意の介入も同時に)
・短時間からスタートして、1分→2分→3分…と段階的に
→ポイント:「立っているだけでも全身は働いている」
足幅調整の様子:座った姿勢の時点でなるだけ肩幅程度になるように誘導を行っています
3. 環境設定と“安心感”が成功の鍵
起立訓練では、環境によって成功率が大きく変わることがあります。
●当施設でよく使う道具・工夫:
・平行棒(高さ調整できる安定した支持物)
・昇降式の椅子やクッション(座面の高さを細かく調整)
・実際の場所での訓練(居室やトイレなど)
・「いっしょに数えてみましょう」「1回だけでいいのでやってみましょう」など
→ 小さな成功体験の積み重ねが、自信の再獲得につながります
4. チーム全体で支える“立ち上がる力”
リハビリだけが訓練をしていても、日常の中で繰り返されなければ身につきません。
・介護スタッフとの連携(起居動作のたびに起立練習を兼ねる)
・看護師と共有するバイタル管理(日常の様子/血圧・心拍チェック)
・療法士間での協働(姿勢・注意・日常動作とつなげる)
・ご家族への伝達(家でもやってみたいという声に応える)
老健のリハビリは、“生活の中で使える力を育てること”。
だからこそ、その人の生活全体に関わるスタッフ全員で「立つ」ことを支えています。
まとめ:立つ力は、つながる力
「立てるようになる」ことは、それだけで生活の幅を広げます。
トイレに行く、洗面台に立つ、誰かと一緒に歩く――
それらすべての“はじまり”は、「立てる」という自信から。
老健での起立訓練は、その第一歩を段階的かつ丁寧に作り直していく支援です。
次回は、この「立つ」力をどのように生活へ応用していくか――
「立ち続ける・姿勢を保つ・生活に使う」場面を中心にお伝えします。
「立ち続ける力を育てる」
— 静的立位・バランス・姿勢保持とその訓練方法とは? —