2020/8/17
かき氷!!
こんにちは。菜乃花リハビリテーション部門ブログ担当です。
前回は「車椅子は“道具”ではなく“暮らしの一部”」
というお話で車椅子のお話の導入をさせてもらいました
前回はこちらから
― 姿勢が崩れる理由と、体への影響 ―
「車椅子に座るとすぐ疲れる」
「背中が丸くなるのは本人の癖?」
「姿勢が安定しないのは体力の問題?」
こうした相談は、リハビリ場面でとても多く聞かれます。
しかし実際には――
“本人の姿勢が悪いから”ではなく、“車椅子が身体に合っていないから”
姿勢が崩れているケースがほとんどです。
今回は、座位が崩れるメカニズムと、
それが体にどんな影響を及ぼすのかをわかりやすく解説します。
1. まず知ってほしい「座位の物理」
座位は、実際にけっこう“滑りやすい姿勢”です。
平らな座面に長い時間座っていると、
体重が前方にズレ続け、
やがて お尻が前に滑り → 背中が丸くなる(仙骨座り) という現象が起こります。
これは筋力の問題ではなく 物理的にそうなりやすい構造 なのです。
▼ここで重要なポイント
標準型車椅子の座面は「水平」に見えますが、ほんの少し後ろに傾きがあります。
車いすに人が安定して座るには “5〜10°ほど後ろに傾いた状態(ティルト)” が
必要とされるからです。
つまり、
座面にほんの少し後傾があると、
※健康な人にとっては※
・お尻が前へ滑りにくい
・骨盤が立ちやすい
・背中が丸まりにくい
・呼吸・嚥下が安定する
というメリットが生まれます。
逆に、体を支えることが難しい人は
上記のメリットがすべて裏返り、
デメリットにもなり得ます
また、車椅子環境として
・座面が水平すぎたり、
・座面奥行が合わないと、
人は“自動的に”姿勢が崩れます。
2. 姿勢が崩れると何が起こるのか
テクノエイド協会のフィッティング資料でも、
わずかなズレや傾きが大きなトラブルを生む と繰り返し強調されています。
①仙骨座り(背中が丸くなる)
・食事がとりにくい
・飲み込みが悪くなる
・呼吸が浅くなる
・腰の痛みが増える
・疲れやすい
仙骨座りは「姿勢が悪い」のではなく、
環境が身体に合っていないサイン です。


② 身体が左右に傾く(側方偏位)
色々な資料で多くの写真が用いられていますが、
左右どちらかに寄ってしまう理由の多くは、
・座面幅が広すぎる
・支えが足りない
・クッションが偏っている
・背張りが調整されていない
といった、車椅子側の要因も多いです


③ 足が床やフットサポートに合わない
・足が宙ぶらりん
・足台が高すぎる / 低すぎる
・足位置が身体の中心からズレている
これは驚くほど 姿勢に全身レベルの影響 を与えます。
足部が不安定になる → 骨盤が不安定になる → 背中が丸くなる
という連鎖が生まれるからです。
3. 合わない車椅子は「身体を壊す」
ここまで読まれた方は、
もうお気づきだと思います。
合っていない車椅子は、
単に「座りにくい」だけではなく、
生活全体に影響するリスクを持つ のです。
▼生活への影響例
・食事量が減る(姿勢の問題で)
・会話量が減る(呼吸が浅くなる)
・活動意欲が低下する
・疲れが増える
・痛みが増える(腰・肩・首)
・認知面の覚醒が下がる
これは本人の能力の問題ではなく
車椅子が原因で“生活の質が落ちてしまう” ということです。

4. 「合う車椅子」は生活を取り戻す
車椅子フィッティングは、
身体を“道具に合わせる”のではなく、
道具を“その人に合わせる”作業です。
それだけで、次のような変化が起こります。
・背筋が自然に伸びる
・食事が安全になる
・会話が増える
・呼吸が深くなる
・眠りが改善する
・リハビリの効果が出やすくなる
・表情が穏やかになる
たとえば、背張り調整やクッション調整だけでも、姿勢は変わります。

まとめ:姿勢は“その人の生活そのもの”
車椅子はただの移動機器ではありません。
座り方が変われば、生活が変わる。
生活が変われば、意欲が変わる。
合わない車椅子は身体を苦しめるけれど、
合う車椅子はその人の生活を静かに回復させます。
リハビリテーション専門職として、
“座る・過ごす・動く”を支えるための車椅子フィッティングを
大切にしていきます。
今回の内容は
公益財団法人テクノエイド協会 HP
https://www.techno-aids.or.jp/
を参考にしています