2025.12.03

リハビリ部門からの啓発-車椅子-第2回「なぜ“合わない車椅子”は身体を壊すのか」

老健 菜乃花 

こんにちは。菜乃花リハビリテーション部門ブログ担当です。

 

前回は「車椅子は“道具”ではなく“暮らしの一部”」

というお話で車椅子のお話の導入をさせてもらいました

 

前回はこちらから

https://www.ontoku.or.jp/blog/%e3%83%aa%e3%83%8f%e3%83%93%e3%83%aa%e9%83%a8%e9%96%80%e3%81%8b%e3%82%89%e3%81%ae%e5%95%93%e7%99%ba-%e8%bb%8a%e6%a4%85%e5%ad%90-%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e3%80%8c%e8%bb%8a%e6%a4%85%e5%ad%90%e3%81%af/


― 姿勢が崩れる理由と、体への影響 ―

 

「車椅子に座るとすぐ疲れる」
「背中が丸くなるのは本人の癖?」
「姿勢が安定しないのは体力の問題?」

 

こうした相談は、リハビリ場面でとても多く聞かれます。

 

しかし実際には――
“本人の姿勢が悪いから”ではなく、“車椅子が身体に合っていないから”
姿勢が崩れているケースがほとんどです。

 

今回は、座位が崩れるメカニズムと、
それが体にどんな影響を及ぼすのかをわかりやすく解説します。


1. まず知ってほしい「座位の物理」

座位は、実際にけっこう“滑りやすい姿勢”です。

 

平らな座面に長い時間座っていると、
体重が前方にズレ続け、
やがて お尻が前に滑り → 背中が丸くなる(仙骨座り) という現象が起こります。

 

これは筋力の問題ではなく 物理的にそうなりやすい構造 なのです。

 

▼ここで重要なポイント

標準型車椅子の座面は「水平」に見えますが、ほんの少し後ろに傾きがあります。
車いすに人が安定して座るには “5〜10°ほど後ろに傾いた状態(ティルト)” が

必要とされるからです。

 

つまり、
座面にほんの少し後傾があると、

 

※健康な人にとっては※

・お尻が前へ滑りにくい

・骨盤が立ちやすい

・背中が丸まりにくい

・呼吸・嚥下が安定する

というメリットが生まれます。

 

逆に、体を支えることが難しい人は

上記のメリットがすべて裏返り、

デメリットにもなり得ます

 

また、車椅子環境として

・座面が水平すぎたり、
・座面奥行が合わないと、
人は“自動的に”姿勢が崩れます。


2. 姿勢が崩れると何が起こるのか

テクノエイド協会のフィッティング資料でも、
わずかなズレや傾きが大きなトラブルを生む と繰り返し強調されています。

 

①仙骨座り(背中が丸くなる)

・食事がとりにくい

・飲み込みが悪くなる

・呼吸が浅くなる

・腰の痛みが増える

・疲れやすい

仙骨座りは「姿勢が悪い」のではなく、
環境が身体に合っていないサイン です。

② 身体が左右に傾く(側方偏位)

色々な資料で多くの写真が用いられていますが、
左右どちらかに寄ってしまう理由の多くは、

・座面幅が広すぎる

・支えが足りない

・クッションが偏っている

・背張りが調整されていない

といった、車椅子側の要因も多いです


③ 足が床やフットサポートに合わない

・足が宙ぶらりん

・足台が高すぎる / 低すぎる

・足位置が身体の中心からズレている

これは驚くほど 姿勢に全身レベルの影響 を与えます。

 

足部が不安定になる → 骨盤が不安定になる → 背中が丸くなる
という連鎖が生まれるからです。


3. 合わない車椅子は「身体を壊す」

ここまで読まれた方は、
もうお気づきだと思います。

 

合っていない車椅子は、
単に「座りにくい」だけではなく、
生活全体に影響するリスクを持つ のです。

▼生活への影響例

・食事量が減る(姿勢の問題で)

・会話量が減る(呼吸が浅くなる)

・活動意欲が低下する

・疲れが増える

・痛みが増える(腰・肩・首)

・認知面の覚醒が下がる

これは本人の能力の問題ではなく
車椅子が原因で“生活の質が落ちてしまう” ということです。


4. 「合う車椅子」は生活を取り戻す

車椅子フィッティングは、
身体を“道具に合わせる”のではなく、
道具を“その人に合わせる”作業です。

 

それだけで、次のような変化が起こります。

・背筋が自然に伸びる

・食事が安全になる

・会話が増える

・呼吸が深くなる

・眠りが改善する

・リハビリの効果が出やすくなる

・表情が穏やかになる

 

たとえば、背張り調整やクッション調整だけでも、姿勢は変わります。


まとめ:姿勢は“その人の生活そのもの”

車椅子はただの移動機器ではありません。

 

座り方が変われば、生活が変わる。
生活が変われば、意欲が変わる。

 

合わない車椅子は身体を苦しめるけれど、
合う車椅子はその人の生活を静かに回復させます。

 

リハビリテーション専門職として、
“座る・過ごす・動く”を支えるための車椅子フィッティングを

大切にしていきます。


今回の内容は

公益財団法人テクノエイド協会 HP

https://www.techno-aids.or.jp/

を参考にしています

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