2016/6/20
感染委員会より
入所介護部の浦部です。
僕が介護の仕事を始めたのは病院での「看護助手」からでした。
その頃はまだ男性で介護の仕事に就く方は少ない時でした。
僕が入職した病院も「男性の看護助手」というのはとても珍しかったらしく、男子ロッカーすらありませんでした。
入職初日に、「とりあえずあそこでこの制服に着替えてきて」と言われ、指されたのは廊下の隅にむき出しで置いてあるロッカーでした。
廊下に置いているだけなので、勿論、丸見えです。
「男だから見られても構わんてことやろうけど、見せられる方はたまったもんじゃないな」と秒速の速さで着替えるのでした。
僕が配属されたのは療養病棟でした。それまで産婦人科だった病棟をそのまま療養病棟にしたようで、今思えば設備には沢山の不備がありました。
この病棟の師長が看護師としての知識や技術は勿論、人間的にとても魅力のある方で、本当に多くのことを学ばせてもらいました。
この療養病棟は38名で満床なのですが、38名の内、車椅子を自走できるのはお1人だけでした。
このおじいさんは普段、仕方なく尿器を使って排尿を済ませています。
勿論トイレは病棟にあるのですが、入口が狭くて車椅子ではトイレの中に入れません。
この不便さに、おじいさんがキレることもしばしばありました。
「この病院はどないなっとるんや!!」と、僕はよく怒られました。
僕は謝ることしかできず、「申し訳ないな」という気持ちと「でも仕方ないよな」という気持ちを行ったり来たりしていました。
ある夜勤の時です。
その時は師長と僕の組み合わせでの夜勤でした。
23時頃、患者様も皆さん落ち着いておられ、ちょっと一息と詰所で休憩をしていました。
すると、師長が
「浦部君、トイレの壁、壊そか」
と、さらっと言ってきました。
「はぁ・・」
「いや、ちょっと広くしたらあのおじいさんトイレに入れるじゃろ」
「まあ幸い建物も古くてボロイから、『壊れた』ということにしてやな」
「さすがにバレるんちゃいます?」
「まあ、車椅子が当たったら壁が崩れたということにしようで。な!」
何が「な!」なのかよく分りませんが、その夜、本当に入口の壁を2人で崩しました。
翌朝、師長が営繕の方に「トイレの入り口のドアが壊れたんです。見に来てください」と連絡しました。
営繕の方から
「何をどうしたらこんなことになるんや」
「何かしたん?」
「ていうか壊したんやろ」
と言われましたが、師長は「いや~車椅子がぶつかっただけでこんなになって。。私も驚いてるんです」とおっしゃられた後、僕に向かって
「なぁ!!」
と言うのでした。
何が「なぁ!!」なのかは分かりませんんが、さらに師長は
「どうせ壊れたんだし、トイレに入りやすいようにもっと広げれませんか?」
と、さらに入口を広げてもらっていました。
営繕の方にはバレバレでしたが、「はいはい、やったらええんでしょ!」と作業をして下さいました。
おじいさんは「ハッハー!!広なっとるわ!!」「これはええわ!!」と大喜びしながら作業を見ていました。
後日、師長に「なんぼトイレの入り口が狭いからいうて、ようあんなことしますわ」と言うと、師長は
「まあ、暇やったしな~」
と、煙草を吸いながら言うのでした。