2018/9/7
歩行器のご紹介 後編
入所介護部の浦部です。
個浴での入浴介助というのは利用者様と職員が本当に「1対1」で介護を行える数少ない場です。
普段は寡黙な方や恥ずかしがり屋の方、遠慮がちな利用者様も、入浴の時は少し心を開いてお話しをして下さることが結構あります。
もう6年前になりますが、とても印象に残っていることがあります。
ある利用者様の入浴介助をさせて頂いた時のことです。
その方はお部屋で本や雑誌を読んだり日記を書いたりと、あまりフロアに出て皆さんと過ごされる方ではありませんでした。
そんなこともあり、社交的な方ではあるのですが、なかなかお話しをする機会はありませんでした。
その利用者様の入浴介助を初めてさせて頂いた時のことです。
湯船に浸かりながら、「あ~気持ちが良いねぇ~」と言い終えると、僕に「あなたの趣味は何なの?」と問いかけました。
僕は音楽、国内外のロックバンドやパンクバンドが好きで、バンドを組んでいたこともありました。
それを伝えると、「まぁ!!そうなの?」「私はねぇ、ローリングストーンズが大好きでねぇ」と、パッと明るくなった表情で僕におっしゃられました。
「僕もストーンズ、好きですよ」
「あら!?本当に!?あなたの歳でストーンズなんて聴くの?」
「昔のバンドのCDもよく聴くんですよ」
「へぇ~!!こんな話ができるなんて嬉しいわ!」
そこからはびっくりするほど饒舌に色んなことを話して下さいました。
今まで体験された辛かったことや、悔しかったお話しが多かったように思います。
ひとしきり話し終わった後、その方は独り言のように、自分に言い聞かせるように、「でもねぇ、『負けるが勝ち』よ」とおっしゃられました。
その時の表情は誇らしげでもあり、少し寂しそうでもありました。
「負けるが勝ちですか?何か深い言葉ですね」
「そう。負けるが勝ちなのよ。悔しいことがあってもね、今までそう思って生きてきたの」
その言葉が今でも強く印象に残っています。
「あえて負けを取ることで、相手に花を持たせる」
「負けから学ぶことがある」
「全てが自分の思うようにはいかない」
今でも「あの言葉にはどんな意味があるのかな?」と考えることがあります。
あの言葉の意味を聞く前に、その方は退所されました。
お年寄りの方と関わっていると、実は色んな「教え」を残していって下さっているのだなとしみじみと思うのです。